炎上の原因は国語力のなさ
ツイッターを見ていたら、こんな情報が流れてきた。
日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない。
日本人の3分の1以上が小学校3~4年生の数的思考力しかない。
これはOECDの依頼を受けて公的機関が調査した結果とのこと。
売れっ子作家の橘玲さんの『もっと言ってはいけない』という本に書いてあるそうだ。
ぼくはそんなに日本人ってバカじゃないだろ?と一瞬だけ思ったが、
いや、これは正しい数字かもとすぐに思い直した。
みなさんは学生時代、国語の成績はどう?
漢字の読み書きの間違いは除いて、文章問題はいつも満点取れてました?
たぶんほとんどの人は満点じゃないと思う。
過去9年間のセンター試験の国語の平均点は約114点。
満点は200点なので、6割も取れてない。
漢文と古文が入っているにしても、現代文もそんなに大きな差はないでしょう。
みんな、日本語で書かれた文章の内容が理解できない。
半分ちょっとしか分からない。
これが現実だ。
ぼくはどうかというと、ある日を境に、いつも満点近い点数を取っていた。
特別な勉強はまったくしてないけど、取れるようになった。
本は小さい頃からよく読んでいた。
図書館にもよく通っていたし、誕生日プレゼントは図書券が欲しいという子だった。
小説、漫画、百科事典、歴史書、なんでも読んでいた。
しかし、中学の途中までは国語はそんなに得意じゃなかった。
5段階評価で4と5を行ったり来たり。満点を取ることはほぼなかった。
ある日、なぜ自分が答えを間違え続けていたのか気づいた。
文章問題の答え合わせをしている時に、正解の理由を聞いて「そうか。自分の感情を入れて楽しく読んだらダメなんだ。」と思ったことがあった。
たとえばそれはこんな問題だった。
「たかし君はゆで卵が嫌い。お母さんに食べなさいと毎朝怒られている。アレルギーも持っていない。でも絶対に食べない。味が嫌いだから。どれだけ怒られても必ず残す。」
質問:たかし君はどんな人ですか?
①たまごかけご飯も嫌い
②頑固
③本当はたまごアレルギーを持っている
④お母さんと仲が悪い
答えは②だ。
①はたまごかけご飯まで嫌いだなんてどこにも書かれていない。文章から分かるのは嫌いなのはゆで卵ということだけ。
②嫌いという理由だけで、意思を一度も曲げないのは頑固な性格と言える。
③アレルギーは持っていないと明確に書かれている。
④ゆで卵を食べないことで毎日怒られているけど、仲が悪いとは限らない。
ぼくはこの手の問題でたまに間違えていた。
なぜなら、文章に書かれている情報だけを素直に受け入れず、自分で勝手に書かれていない情報を想像して付け加えて理解したり、自分の常識をあてはめて判断してしまうことがあったからだ。
いらない想像が入ることで、数的思考もできなくなる。
数的思考というのは説明が難しいけど、論理的に考える力というやつ。公務員試験にあるよね。
その自分の間違いに気づいてから、現代文の問題を解く時には「自分の感情や常識を消して読む」ように心がけた。
機械のように文字だけを追って、文章に書かれている事実だけを理解するようにした。
するとたいてい100点を取れるようになった。
ぼくは高校で理系に進んだが、大学受験も現代文は満点だった。
その気づきを得てから、他の人たちが言葉を理解していないなと思う場面が増えた。
他人と会話をしたり、SNSやコメント欄を読んでいると、文章を理解できていない人が多いことに気づくようになった。
つい最近も桜田五輪大臣の発言が炎上していた。
池江選手の白血病のニュースを聞いて「がっかりした」と発言したことが国民の反感を買った。
ぼくは最初、みんなが何に怒っているのか分からなかった。
ニュースを読む限りでは、桜田さんはがっかりしたという感想を言っているけど、池江さんの病状を思いやってないとは書かれていない。
また、一部の発言を切り取ってニュースになっていることは明白だった。
桜田さんはオリンピック担当大臣なので、毎日誰よりもオリンピックのことで頭がいっぱいのはずだ。そんな彼が有力選手の悲報に触れてがっかりするのは普通の感情だ。むしろがっかりしなかったらおかしい。
その感情と、池江さんに対する感情はまた別だ。
たとえば、長年介護をしてきた人が、介護者が亡くなった時にには2つの感情を持つ。亡くなって悲しい気持ちと、介護から解放されて楽になる気持ちだ。
こういった相反する感情が両立するのが人間。
きっと桜田さんもがっかりという気持ちもあるけど、池江さんが病気に打ち勝って欲しいと思いやる気持ちもあっただろう。
ニュースでは前者だけが切り取られている可能性があることは記事を読めば分かった。
しかし、多くの人はこう思ったそうだ。
がっかりってなんだよ。自分のことだけかよ。オリンピックなんて関係ない事態だろ。池江さんに同情する感情がないのかよ。これだから政治家は嫌いなんだ。池江さんに失礼だ。こんな人は大臣にふさわしくない。
国民のほとんどがニュースには書かれていない桜田さんの人柄や気持ちを勝手に想像して、大批判になった。
ぼくは最初から肯定も否定もなかった。
だって、ニュースには桜田さんの池江さんに対する感情は書かれていなかったから。
情報がないのに、勝手に想像して怒る人たちは、日本語が読めないんだろう。
その後、桜田さんの発言の全容が報道されると一気に批判は落ち着いた。
実は桜田さんは池江さんに対して思いやる言葉も発言しており、病気を治すことだけに専念してほしいと言っていたのだ。
全文を読むと、むしろ池江さんに対する思いやりに多くの言葉を割いている。
今度は多くの人の怒りは一部だけを切り取って報道したマスコミに向いた。
偏向報道が悪いと。
自分たちが文章を勝手に誤解したことには無自覚なまま。
たしかに、政治家として不用意な発言だった。
そこだけを切り取ったマスコミも悪い。
だけど、日本人の国語力のなさはもっと酷い。
誰もが自分の過ちに気づいていないのは絶望的だ。
ほとんどの人は自分が日本語をちゃんと理解していると思い込んでいる。
国語でいつも満点が取れない実力しかないことをすっかり忘れて。
ぼくもこんな稚文を書く程度の国語力なので、人のことは言えない。
できるだけ謙虚であろうと心がけている。
たぶんこの記事を読んだ人は「現代文がいつも満点だって自慢してんじゃねーか。何が謙虚だよ」と思うだろう。
それが国語力のなさだ。
ぼくは自慢している気持ちをどこにも書いてない。
文章の流れや構成上必要な事実だから書いたのであって、自慢したいために書いたわけではない。
文中に書かれていないぼくの意図を自分勝手に想像して、文章を誤解する典型パターンだ。不正解。
もしこの意味が分からないのであれば、それは最初に紹介したOECDの調査の「日本語が理解できない3分の1」に入っている人だろう。
仏教では、一番の罪は「無知」だとされている。
人は自分が正義だと信じている時にもっとも狂暴になるとも言われる。
無知であることに無自覚だと、正義のつもりで永遠に悪行を続けてしまう。
人間は正義でもなく悪でもなく、無知だ。
なぜ生まれたのか、死んだらどうなるのか。
ぼくたちはそんな重要なことにすら答えられないでしょう?
自分はとても愚かな生き物だということをまずは自覚したいし、してほしい。